400人の過疎から世界が注目するメーカーが生まれたわけ___中村ブレイス 中村俊郎社長インタビュー[2/2]

執筆者: 藤野荘子
vol35
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400人の過疎から世界が注目するメーカーが生まれたわけ___中村ブレイス 中村俊郎社長インタビュー[2/2]

執筆者: 藤野荘子

私たちは何のために働くのか
より多くの人々が幸せになる社会とはどのようなものか

私、藤野荘子は企業経営者や研究者の方々にお話をお伺いし
資本主義の中で幸せに働く方法やその可能性について
ThinkAboutを通して発信しています。

連載の背景はこちら
“働く”について考える ~今の時代における労働の意義とは~
連載第1回は、中村ブレイス株式会社の中村俊郎社長のインタビューをお届けします。
インタビュー後半では、中村社長の会社に対する考え方を伺いました。

中村社長の考える「働く」とはをお伺いした前編はこちらから
400人の過疎から世界が注目するメーカーが生まれたわけ 中村ブレイス 中村俊郎社長インタビュー[1/2]

誰かの役に立つことをする

ーー前回は、中村さんにとって「働く」意味や、夢を実現するためにはあきらめないでやり続けることが大切だというお話を伺いました。今回は、中村さんの経営哲学を伺いたいと思います。そもそも、会社とはどのような存在だと思いますか

会社とは、人の役に立つことをするものではないでしょうか。私たちはものづくりの会社ですから、自分たちの技能や技術で、何かお客様のお役に立てることをしたいという想いがあります。その気持ちが大切だと思っています。

生活の上で少しでも役立つことがあれば、お役に立ちたい、支えになりたい。
会社というのは、基本的にそういうものじゃないでしょうか。

手足をなくした人に、義肢装具という医療用具を作る。苦しみを持った方のためにものづくりをしてるということは、絶対に忘れてはいけないと考えています。どんなにスピードが求められる時代になっても、「ハンディキャップを持った方のための医療用具を地道に作ろう」という想いは変わりません。手足をなくした方たちへの商品を作るということを心に刻んで仕事をしています。私たちの作る用具によって喜びの輪が広がっていくことを願っています。

ひとりで始めた会社が、今や70人を超える従業員を抱えるようになりました。決して大きくはないけれど、小さくもない会社になりました。堅苦しく考えてはおりませんが、真摯に取り組んでいこうというテーマは何年経っても変わらず、20年、30年と勤める社員たちの共通認識になっています。

義肢の製作状況
義肢の製作状況

ーー誰かの役に立ちたいという気持ちが広がっていったのですね。関わる人も多くなった今の組織を経営する上で、心がけていることやモットーはありますか

モットーは2つあります。1つは「Think」です。もう1つは、「黙々と 小さきあゆみや かたつむり」という言葉です。

1つ目の「Think」は、考える力。私たちで言えば、患者さんの視点で考える力です。より良い生活をしてもらうために義肢装具をどう使えばいいか、それぞれの状況に合わせてあらゆる角度から考えて創意工夫していくこと。モノづくりの原点は「考える」ことなのです。

職場の壁に掲げてある、「Think」というモットー
職場の壁に掲げてある、「Think」というモットー

2つ目は、父にもらった「黙々と 小さきあゆみや かたつむり」という言葉です。絶えず前向きにチャレンジ精神を忘れず、ゆっくり歩む。そうした企業でありたいと思っています。スピード感が求められる今の時代にそれでいいのか、と言う方もいるでしょう。ですが、原点である「かたつむりの歩み」っていうのは私たちが忘れてはいけないことだと思うんです。「地道な歩みでもいい。目の前の安易なことに飛び付かないようにしろ」というのは、本当に有り難い教えでした。

それは、社員の成長に対しても同じだと考えています。「速い人は速足でもいいし、ちょっと時間がかかる人はゆっくり歩めばいい」という方針です。スピードよりも、全員が胸の中に持っている熱い想いや優しい気持ちを守り続けることのほうが大切ですから。ある程度努力すれば、器用に物事をこなすことは難しくありません。でも、確固たる想いをずっと持ち続けることは、簡単なようで意外と難しいんです。

最近、日本社会で「ゆっくり進歩すること」を軽視する風潮がありますが、危険だと思いますね。タイやベトナムなどのアジア諸国では、みんな気持ちに余裕がありますよね。最近の日本人は精神的に追い詰められすぎではないでしょうか。成長を急ぎ過ぎると、どこかにガタがくる気がしてならないんです。

変化の激しい現代社会の中、私たちの成長は、本当に「かたつむり並の遅さ」です。でも、絶えず努力した結果、非常に面白い事業が立ち上がっています。そういう意味では「ゆっくり長い目で見て持続させる」というのも、企業にとって大切なことじゃないかなと思います。

例えば、今話題の「働き方改革」についても、私は「色んな人が色んな働き方をするべきだ」と思います。時短で働いて子育てする人もいれば、夜を徹して研究する人もいる。みんなが土曜日でも日曜日でも金曜日でも早く帰りましょうという会社は、持続しないと思います。

人間の能力なんていうのは、その日のちょっとした気分や出来事で変わるんです。頭が冴える日もあれば、体調が優れず何をやってもだめな日もあります。人間は一人ひとり違うんですから、休日や勤務時間だってそれぞれのペースがあるはずなんです。それを堅苦しく一律的に考えるのは、違和感があります。

効率を求めるあまり、本当に大事な「人」を犠牲にすることがあってはいけません。日本の企業文化に対しては「もっとゆっくり着実に歩む道もあるぞ」と言いたいですね。育てるというより、見守って自然に伸ばしてあげるという感じなんです。

職場の風景
職場の風景

ーー事業も個人も「無理な成長を求めない」というのはとても大切な気がします。長い目で社員の成長を考えていらっしゃると思いますが、接する時に心がけていることは何かありますか

個性を認めてあげることは大事ですね。「これだ」と思ってやったことで注意を受けてしまったら、誰だってやる気をなくしてしまいます。叱るのではなく「すごいチャレンジをしたね」って言ってあげる。個性を発揮したことを魅力的だねなんて言われたら、やっぱり嬉しいじゃないでか。それは、私がアメリカに行って修業した時に初めて体験して、衝撃をうけたことでもありますから。

また、自分の可能性に気づいてもらえるように、しっかりと声をかけることを意識しています。
以前、会社が大きくなるにつれて若手社員が増えた時期がありましたが、個性派が多かったんですよね。でも、「素晴らしい能力を持っているね」などと声をかけると、目が輝いてきます。やる気になってやり始めたらすごいことになるんです。「どこでもやっていけないから、仕方なく島根に帰ってきた」と思い込んで、自信を無くしているだけなんですよね。

そんな社員が、義足や義手を作り始めると周囲から「尊い仕事をしているんだね」と言われるようになります。今まで「自分は世の中の邪魔者だ」と思っていたのかもしれませんが、そんなことはないということに気がつく。人の手助けができると分かった瞬間に変わるのです。なので、日頃から社員と接するときには、彼らが自分の可能性をちゃんと信じられるような言葉遣いや態度で接するようにしています。

そうやって、個人の可能性を開花させて、夢を実現できる場所が、会社なのではないかと思います。

今の社会ではあまり評価されない「ゆっくりだけど、着実に進む」という価値観。その中で個性と可能性が自然と伸びる環境を作ることが、社員の幸せに繋がるのかもしれません。中村さん、貴重なお話をありがとうございました。

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執筆者:藤野荘子
2016年にネットプロテクションズに入社。
発展途上国の開発について勉強するために立命館アジア太平洋大学に入学。
在学中に1年間バングラデシュのグラミン銀行グループでインターンシップを経験。
現地で「労働のあり方」に疑問を持ち、帰国後、労働社会学を中心に研究。
現在はビジネスとして利益を得ながら幸せに働くためにはどうすればいいか
自分の人生を通して実験中。
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